雨に追われて安芸の町を歩く。

私はどうしても政治家になりたい。

この命をかけて、人のために尽くしたい。

その覚悟はあっても、
果たして何をすれば良いのだろうか。

恐らく、死ぬまで努力をしなければならないだろう。

それでもいいと思っている。


はるか遠くに岬が見える
室戸岬は まだまだ遠い


安芸川橋

海沿いに波の音を聞きながら歩いている。

眉間にしわをよせ、歯をくいしばり、
汗にまみれて歩いている。

痛む足を引きずるようにして、
ひたすら歩いている。

人は苦しんでいるときの方が、
ものごとを深く考えるものだ。

苦しさを忘れれば、その気持ちが分からなければ
人のために生きることはできない。

だから、人のために生きるためには常に苦しんで、
その人の気持ちを忘れてはいけない。

いつまでも、今のこの苦しいときの
気持ちを忘れてはいけない。

浜から風が吹いてくる。

この世に風が吹く限り、波の音は聞こえてくる。


我が道を問えば寄せて返す波
あるがままにてなすがままにと

室戸まで 行く苦しみに 我を知る
流れる汗の滴るままに


大山岬

嶮しい遍路道を登っている。

山の上の寺につくまでは休まない。

私は暑さと疲労でぼんやりとした頭のままで、
ただひたすら遍路道を登っている。

四国八十八カ所、第二十七番礼所、神峯寺。

昔、空海が修養のため苦行に修練を重ね
悟りを開いた巡礼の道である。

同行二人、
いつのまにか一匹のアブが私についてくる。

アブはしつこくつきまとい、
いくら手で払っても走って逃げても、
どこまでもつ いてくる。

多くの人を救うため、世の中のために役にたつ
人間になろうとするための修行 の道である。

しかし、私は今、この身に迫ってくる
たった一匹のアブをもこの手で振り払って
のがれ、逃げまどっているのである。

アブはしつように私を追い続ける。

私は必死で急な山道を登り、
やっと神社の入り口の水飲場に逃げ込んだ。

アブは、その前の道路に溜まった
水溜まりに止まり、羽を休めた。

私は一口の水を飲み、一息ついたところで、
その水溜まりに止まっているアブに
力一杯一撃を加えた。

アブは腹を上にして苦しそうに
水に浮かんでもがいている。

私は、さらにアブにとどめを刺した。

アブはもはや動かなくなった。
死んでしま ったのである。

私はアブに刺される恐怖から逃れた。
どうして殺してしまったのだろうか。

多くの人々を救うために、
この命を捧げる と誓ったはずなのに、

別にアブに刺されても死ぬことはない。
ただ、自分を追い回すアブに刺されるのが
いやなだけである。

生き物の命も、人間の命も同じ命なのに・・・。

自分という人間は、自分本位で勝手な存在である。

境内には、夏蝉の命の限り鳴く声が響きわたっている。

突然、空から一匹の黒い揚羽蝶が
舞い降りて来て私の手に止まった。

人は快楽を求めて生きている。
道が遠ければ車に乗り、飛行機に乗る。

暑ければ クーラーを買い、寒ければ服を着る。

腹が空けば肉を食い、
人間に害を与えるものはこの世から抹殺してしまう。

果たして、それは善なのか悪なのか。

それは知恵であるのか冒涜なのか。

人はその英知をもって、
この世を人間が住み易いようにかえていっている。

それは人が限りのない欲望を求め続ける
生き物に過ぎないからであろうか。

そうやって、
人間社会の文明というものを築き上げるのか。

いかにすれば人として幸せになれるのか。

同行二人、何かが問いかける。


み仏に わが道問えば 蝉時雨
命限りに鳴いてはかなし


安田・神峯寺


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